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プロローグ 

1話)思わぬ告白??



『付き合ってくれない?』
 その言葉を口にした相手は、竹林優斗。
 クラスで、いや学年1ともいわれるほどの美形の男子生徒だ。
 ほっそりとしなやかに伸びた体に、小さな顔。
 ツヤツヤの黒い髪がサラリとなびく。あくまで無造作に伸ばした感じの髪の奥から、人形のような顔立ちがのぞいた。
 まるでどこかのアイドルを連想させる男の子だ。地方の寂れた公立高校に在籍するにはもったいない位に・・・。
(見ているだけで、目の保養になるわ。)
 なんて、初めてクラスに入って彼の姿を認めた時に、そう思ったほどだった。
 その竹林優斗に、『付き合ってくれない?』なんて、こっそり耳打ちされたのだ。
 こんな名誉な事はない。
 もちろん、『NO』の答えは、浮かんでこなかった。
 対して彼に告白されている自分はというと・・。
 名前は松浦芽生で、自他ともい認めるくらいに、そこそこに恵まれた容姿を持っていた。
 たいしたダイエットもしなくても、細身な体型。
 なのに、付くところにはフックラしっかり実っていて、お尻の形なんかは毎晩うっとり見るくらいに美しい。
 髪の毛も月に一回、カットと毛染めをする時に、トリートメントをするくらいで、ツヤツヤ、クルリン。自然なカールをそのまま、腰のあたりまで伸ばしていて、顔立ちだって、かなり美しい部類に入るだろう。
 目元は、アイラインをひかずとも、ビッシリはえた本当のまつ毛が、その代りをしてくれているし、ビューラーで上げたら、パッチリ瞳の出来上がり。
 大きな茶色がかった瞳は、いつもうるんで濡れたように光り・・・これは少し近眼がはいっていたために、焦点があわないためだ。
 さすがに眉毛は唯一といえるべき欠点で、そのままにしておいたらバブル期の眉だ。剃って整えると、そんな欠点、消えてしまう。
 スーと、高すぎず低すぎず通った鼻梁。小さな唇はちょっと薄めかもしれない。
 でも、全体を通して見れば、綺麗に顔の中に納まっていて、全然おかしくなかった。
 それに白い肌は自慢だ。ちょっと顔色が悪いくらいに青白い時があるので、血色がいいように、ほっぺには、いつもほんのりチークをいれている。
 今の体が、女性の人生の中で、一番恵まれた状態であるのを、芽生は知っていた。
(お母さん。恵まれた体に生んでくれてありがと〜。)
 なんて思っているくらい。
 ただ背丈は、芽生の思ったようには伸びてくれなかっただろうか?
 精一杯、体をのばしても、157センチにしかならないのでは、モデルを目指したくっても、できない話だった。
 キャビンアテンダントになりたいと思っても、難しいなんて友達にいわれて、あっけなく断念。
 そもそも、小さな頃からなりたい仕事・・・なんてなかった芽生には、執着するものがないのだ。
 のんべんだらりと小学・中学を過ごし、する事がないので地元の高校に進学した。見た目が気合いの入った女の子達のグループに入って、楽しく過ごす毎日には、そこそこ満足していた。


 ・・・ただ見た目だけは恵まれているとはいえ、自分には“華”のようなものがないのは、よく分かっていた。
 そこが竹林優斗にあって芽生にはない魅力だと思うのだ。・・・そもそも優斗とは、比べるレベルが違うかも知れないが・・・
 人形のような、造り物めいた造作の彼の周囲には、華やいだ空気のようなものが流れていて、自然に周囲の視線を集めてしまう。
 そんな彼が、ニッコリ笑いでもすれば、クラスの女子達は、“ホウ”と、ため息をついてしまうほど。
 一日にして、クラスのトップをとった優斗は、ほどなくしてあちこちから告白めいたものを受け、上級生と付き合っているだの、隣のクラスの可愛い系の女の子とも付き合っているだの、浮き名を流すようになった。
 同時に、あっという間に別れを切り出しただの、女の子を泣かせただの、いい話を耳にしないのも事実だった。
 そんな事はともかく、竹林優斗からの告白は価値がある。!!!
 プライベートで小さな悩みを抱えていた芽生は、いっそのことそんな悩みも、打ち消せるかもしれないと思って、
『いいよ。』
 と返事をしかけた時に彼の口から出た言葉が、とんでもない内容のものだった。